腰痛、肩こり、膝の痛み、首の痛み。 慢性的な痛みに悩まされている方の多くは、 「筋肉が硬いから」 「骨盤が歪んでいるから」 「年齢のせいだから」 と説明を受けた経験があるかもしれません。
しかし近年の疼痛科学の進歩によって、慢性痛は単なる筋肉や関節の問題ではなく、脳・神経・自律神経・代謝・心理状態などが複雑に関わる現象であることが明らかになってきました。
この記事では、慢性痛が発生する仕組みについて詳しく解説していきます。
多くの人は「痛み=傷」と考えています。 確かに捻挫や骨折などの急性外傷ではその考え方は正しいでしょう。
しかし実際には痛みは傷そのものではありません。
痛みとは脳が作り出す防御反応です。
例えば紙で指を切った時を考えてみましょう。 切れた瞬間は痛くなく、数秒後に痛みを感じた経験はありませんか?
これは傷そのものが痛いのではなく、 脳が危険を判断した結果として痛みを作り出しているためです。
つまり痛みとは身体から脳へ送られた情報を脳が評価し、 「この部位を守る必要がある」 と判断した時に発生する感覚なのです。
急性痛は身体を守るための正常な反応です。
などでは組織が損傷しているため痛みが発生します。
しかし通常は組織が修復されれば痛みは消失します。
一方、慢性痛は違います。
組織が治癒しているにもかかわらず痛みが続いてしまう状態です。
その背景には神経系の変化が存在しています。
私たちの脳は非常に優秀です。
繰り返し入力される刺激を学習します。
例えば自転車に乗る練習をすると、 最初はできなかったことが徐々にできるようになります。
実は痛みも同じです。
長期間痛みが続くと、 神経は「痛みを感じること」を学習してしまいます。
すると本来なら問題にならない刺激にも反応するようになります。
これを中枢性感作(Central Sensitization)と呼びます。
中枢性感作とは、 脳や脊髄の神経系が過敏になってしまう状態です。
例えるなら火災報知器の感度が異常に高くなった状態です。
本来なら火事の時だけ鳴るはずの警報機が、 料理の湯気や少しの煙でも鳴ってしまうようになります。
慢性痛患者の神経系も同じです。
こうした現象は神経系の感度上昇によって説明できます。
近年の疼痛研究で重要視されているのが、 OFF細胞とON細胞です。
OFF細胞は痛みを抑制するブレーキ役です。
この細胞が働くと脳から脊髄へ命令が送られ、 痛み信号の伝達が抑えられます。
つまり身体が本来持っている天然の鎮痛システムです。
ON細胞は痛みを増幅するアクセル役です。
危険を感じた時、 身体を守るために痛みを強く感じさせます。
慢性痛患者ではON細胞が働きすぎ、 OFF細胞が働きにくくなっていることがあります。
患者さんから 「ストレスで痛みが悪化する」 という話をよく聞きます。
これは気のせいではありません。
脳は不安を危険信号として認識します。
するとON細胞が活性化し、 痛みの感受性が高まります。
つまり身体は壊れていなくても、 脳が危険だと判断すると痛みが増強されるのです。
人間には痛みを抑える強力な仕組みがあります。
これを下行性疼痛抑制系と呼びます。
スポーツの試合中、 怪我をしても気づかずプレーを続ける選手がいます。
これは脳が 「今は戦うことが優先」 と判断し、 痛みを一時的にブロックしているからです。
このシステムには セロトニン、 ノルアドレナリン、 エンドルフィンなどが関与しています。
徒手療法は単純に筋肉をほぐしているわけではありません。
心地よい触刺激は脳に対して 「ここは安全ですよ」 という情報を送ります。
するとOFF細胞が活性化し、 下行性疼痛抑制系が働きやすくなります。
つまり施術の本質は、 身体が本来持っている鎮痛システムを再び働かせることにあります。
慢性痛の改善に必要なのは、 単純に痛い場所を揉むことではありません。
脳・神経・筋肉・自律神経を含めた全身のバランスを整え、 OFF細胞が働きやすい環境を作ることです。
私たちは患者様が本来持っている回復力を引き出し、 「痛みを抑える力」を再び働かせることを目指しています。

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